ウルトラセブン1999最終章６部作 番外編１
「そのころ、彼らは…」
矢的八十郎
(初出 ２０００年１１月１日 ＠ｎｉｆｔｙウルトラマンフォーラム）
地球人の過去の秘密を封印したオメガファイルを巡っての戦いの中、ウルトラセブンは「内政不干渉」という宇宙警備隊員としての掟を破り、地球防衛軍のオメガファイル保管施設を襲撃、さらには返す刀で地球の先住民族を名乗るノンマルトの差し向けた怪獣ザパンギと対戦し、これを倒してしまった。
すべては、故郷・Ｍ78星雲からの追放を覚悟した上での行動だった。
しかし、そのセブンの行動を見守る者たちがいた。
Ｍ78星雲・ウルトラの星、その首都にそびえ立つ宇宙警備隊本部の司令室では最高司令官ウルトラの父、隊長ゾフィ、そして今は中堅の指揮官として宇宙の平和を担うウルトラの兄弟たちが、巨大なモニタスクリーンを通してセブンの戦いをじっと見つめていた。
しかし、宇宙警備隊員としての最高規律を無視してまでのセブンの行動は、長い付き合いであるゾフィたちの予想を遥かに越えていた。ただ、ウルトラマンだけが「またか…」とつぶやいてたが、そのつぶやきは誰の耳にも届いていなかった。
しばし呆然と立ち尽くしていたゾフィは、やっとのことで自分の唯一の上司の名を呼んだ。
ゾフィ「…ウルトラの父」
だが、答えはない。ゾフィが振り返ると、ウルトラ兄弟の師父にして宇宙警備隊最高司令官・名誉大隊長たるウルトラの父の姿が、ゆっくりと後方へ倒れようとしていた！
ゾフィ「！？」
ゾフィが父の方へ一歩踏み出すのと、父の後頭部が床に叩きつけられるのはほぼ同時だった！
ゾフィ「ウルトラの父！」
タロウ「父さん！？」
愕然として駆け寄るゾフィとウルトラ兄弟たち。
仰向けに倒れた父の顔には青い縦線が無数に入り、ウルトラの星にいるにも関わらずカラータイマーは狂ったように点滅していた。
意識を失いかけながらも、やっと聞き取れるような声で何事かをつぶやいていた。ゾフィは、遅まきながら父を抱き起こすと、父の口に耳を寄せた。
父「……に…任務…い…違反……交渉…銀河連邦…事後処理…ししししし始末書……５２８枚……けけけ決済……せ…せ…セブン……お…おのれは……」
父のつぶやきの意味を理解したとたん、ゾフィの顔にも父と同じ縦線が無数に走った。
宇宙警備隊の誇る最強戦士団・ウルトラ兄弟の一員にして、太陽系部長(*)と隊長直属の遊撃要員を兼任するウルトラセブンの暴走！このスキャンダルが全宇宙を揺るがすのは時間の問題であった。
しかも、事件の内容は非常に複雑であり、セブンの行動を批難すべきか容認すべきかで、宇宙警備隊内部や宇宙国家間ですさまじい論議が巻き起こるのは必至である。解決までには膨大な過程が必要であり、セブン自身の行動の事後処理もふくめて気の遠くなるような作業が予想された。
そして、その作業量に思いをはせた精神的ショックは、宇宙警備隊の最高司令官であり歴戦の勇士でもあるウルトラの父を容赦なく打ちのめした。おそらく、ウルトラの父は当分の間その重責を果たすことが出来ないであろう。すると、その父の不在を埋めるのは…………！
かろうじて、父と同じ世界へ落ちるところを踏みとどまったゾフィは、自分の負担を少しなりとも軽くしてくれるであろう有能な副官を振り返った。しかし…
ゾフィ「おい、ウルトラマンはどこへ行った？」
エース「は、はい、つい三十秒ぐらい前に、アンドロメダ星雲方面へのパトロールに出発されました」
ゾフィ「！！！？……ジャックはどうした！?」
８０ 「たった今、異次元宇宙へヤプールの残党を調査に行かれました。調査結果が出るまで帰らないそうです…」
…ゾフィは思わず天をあおぎ、実の弟同然とも思っていた副官たちの要領の良さと自分自身の要領の悪さを同時に呪った。
なぜか脈絡も無くレオ兄弟の姿が脳裏をよぎる。宇宙警備隊という巨大な組織とは無縁に生きている彼らの自由闊達さが、今のゾフィにはうらやましかった。
ゾフィ「ええい！他人をうらやましがっている場合か！」
ゾフィは頭を振って、雑念をむりやり追い払った。そして、力無く新参の部下たちに指示を出した。
ゾフィ「グレート…事務へ行って、始末書の用紙を取ってきてくれ。いや、千枚ほどでいい……パワード、すまんが君は私の執務室から頭痛薬と鎮静剤を取ってきてくれ…いや、いつもデスクの上に置きっぱなしだからすぐわかる…」
そのとき、もう一人の新参隊員があわただしく司令室に駆け込んできた。
ゼアス「ゾフィ隊長！部長は…いえ、ウルトラセブンはすでに地球を離れ、こちらへ…ウルトラの星へ向かわれています」
ゾフィ「何いいいいぃぃぃぃぃっ！？」
もし、ウルトラ人の肉体に「血圧」というものがあったら、ゾフィの脳髄はこの瞬間に跡形も無く吹き飛んでいたであろう。
重大な服務違反を犯したとは言え、セブンの帰る場所はここしかない。追放されるにしても、何らかの特例が認められるにせよ、まずここへ帰ってきて指示をあおぐのがセブンにとっては唯一の選択肢である。それはゾフィにもわかっている…しかし…しかし…………セブンを追うべきなのか、それとも迎えるべきなのか…
ゾフィ「究極の選択か…」
ゾフィの足から力が抜け、片膝が床に落ちた。部下たちが見つめる中、ゾフィはいつまでもその片膝をついたポーズを崩さなかった。
沈黙の中、いつの間にか鳴り出したゾフィのカラータイマーの音が無気味に響いていた。
すでに、その傍らで大の字になっているウルトラの父の存在は、その場の全員から忘れ去られていた…
セブンの、そしてゾフィの運命は……
……未来は誰にもわからない。
おしまい（？）
＊第２期ウルトラシリーズの裏設定で、セブンの役職は宇宙警備隊の太陽系部長だった。